井川蒸溜所見学(後編) | 山籠りをする男たち
日本で標高が一番高い、まさしく秘境と言える場所にある井川蒸溜所へ視察に行くことができた
前編はこちらから
静岡駅から車で4~5時間、川に沿いながらいくつもの山を越え、数々のダムを横目に奥地へと進む
通行禁止ゲートを通過し、一般車両通行禁止の道を慎重に進み、ようやく井川蒸溜所へ到着した。
十山株式会社 / SHARING THE ALPS
ずいぶん遠くまで来た
長い道のりだった
蒸溜所近くの木賊(とくさ)湧水に案内される
すべての仕込みに使用する湧水で、正確な場所は秘密だ。
水をすくうと手がひんやりして気持ちいい。
動物が残す痕跡をたどる経路を持たず、直接湧水が汲まれるためそのまま飲めるという。
ただし流通となると基準が存在するため、なるべく水自体に手を加えないUV等による光処理を施しているそうだ
木賊(とくさ)湧水
ひっそりと佇む建物
それにしても空気が澄んでいる
広大な井川社有林の中で、確かにこの場所は最適かもしれない。
近くに湧水があり、川もあるので排水も容易である
しんと澄んだこの土地で熟成される原酒はきっと良いものになるだろう。
蒸溜所では運良くカスクナンバー999の搬入を目撃することができた。いつかボトルになって出会えたら嬉しい。
Cask No.999
所長による説明を受ける
元々グループ会社の特種東海製紙で科学担当をしていたとのこと
科学的なアプローチでの説明は理系の私にはわかりやすく納得がいくものであった。
ポットスチル
蒸留の初めから最後までの香味検査
蒸留の初めから最後までのスピリッツを1分ごとにサンプルし、程よい香味が出てきたタイミングから、蒸留後半の終わりのタイミングまでを見計らい、中間部分の良いスピリッツを製品として採用するそうだ。
前後の採用されなかったスピリッツは、また次回の蒸留に混ぜることでより複雑な香味が得られると言うサイクルを繰り返すらしい。うなぎのタレみたいではないか
樽の香りがする
倉庫にはこの井川山林で採取されたミズナラの木の樽も眠っていた
ミズナラ樽は、倒木から汲み上げられ何樽か存在していたが、樽からの液漏れ等により現在は1樽に組み替えられて貯蔵されていた。
貴重なCask No.0である
ほんの少しだけCask No.0のミズナラ樽を試飲する
一貫して感じるのは、長期的な熟成を念頭においた仕込みだ
この高地の特性を踏まえた仕込みとも言えるが、別の側面もあるように感じる。
大倉喜八郎が1895年に井川山林を取得し、そこから100数十年、ただ1社がこの森を管理してきた
長期に渡って山林を経営管理してきた先人たちへの想いが、この会社には根付いている。
井川蒸溜所 - 十山株式会社 (特種東海製紙グループ)1
管理する井川山林に3000m峰が10座あることが十山の名前の由来の一つとなっている
3000メートル級の山々が10座にも及ぶ雄大なスケールと、そこを守り続けた途方も無い時の流れが、ウィスキー作りにも反映されているのかもしれない
こんな覚悟を持った作り方はこの会社でしかできないと感じる
倉庫に眠る樽
蒸溜所スタッフは10日ほどこの蒸溜所で連続勤務をし、数日は下山して静岡市内で休暇を過ごすサイクルを繰り返す
滞在中は近くにある山小屋に寝泊まりをしている。まさに山籠りだ
明日はちょうど下山日でこれからBBQをするという。ご厚意でご一緒させていただく
凍らせた木賊湧水でハイボールを作る
それぞれバックグラウンドが違う男たちが山籠りをしていると聞く
異業種からこの会社に入った人々。技術者として活躍する中、社内異動で単身ウィスキー作りを学びこの秘境ならでは香味を追求する所長。
彼らの覚悟を見届けたくなる自分がいた
今夜はわれわれも山籠りだ。椹島ロッヂ2に移動する
このロッジも特種東海製紙グループの特種東海フォレストが運営していた
カマドウマが出ますよと脅された部屋
水は冷たく澄んでいた。滝の水とのこと
朝5時に起床
山小屋の朝食
山の朝は早い
早朝に起床し食堂にいくと、工事関連で働く人々がもりもりと飯を飲み込んでいた。
このロッジの利用者は登山客のほか、道路やトンネルで働く工事関係の人々に利用されているそうだ。すばやく食事を済ませ現場に出発する人々の背中は格好良い
また、井川山林の下をリニアが通過する工事の計画がある
これに対し十山株式会社は真摯に向き合っていた
井川山林の経緯を知ると(土地所有者として)という言葉の重みを強く感じる
詳しくはこの資料を一読してほしい
井川山林の歴史が分かりやすくまとめられている
井川山林の歴史とリニア工事 (土地所有者として)
特種東海製紙の前身の一つである旧東海パルプは、大倉喜八郎が1895 年に井川山林を取得し、豊富な木材資源と大井川での水力発電を組み合 わせた製紙原料の会社として1907年に創立。
大倉喜八郎が井川山林を取得してから127年。私たちが経営管理を行ってきた。 https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001571724.pdf
井川山神社
出発前に井川山神社を参拝する
この土地を訪れることができたことに感謝
さて、あとは帰るだけだ
山道に心強いデリカ
朝日に照らされる赤石岳
デリカに運ばれ、井川山林の山々を見上げる
100数十年、ただ1社がこの森を管理してきた時の長さにめまいがする
十山の使命 自然を楽しみ自然を守る人を育む
単に山奥の高地でウィスキーを作っているのではない
ひたむきにこの山林と向き合う彼らのことが好きになった
魂をこの山林に置いてきてしまったのか、その後の数日は何をしても上の空となっていた